Secondary School attached to the Faculty of Education, the University of Tokyo

【行事報告】令和7年度 入学式

4月8日(火)に、令和7年度入学式を挙行しました。学校長、東京大学総長、東京大学教育学研究科長、PTA会長よりごあいさつをいただきました。在校生代表の歓迎の言葉の後、新入生の初々しいあいさつには、学校生活への大きな期待が込められていました。

まさに春本番の朗らかな陽気の中、満開の桜が新入生をお祝いしているかのようでした。80回生の新入生の皆様、ご入学おめでとうございます。皆様の今後の活躍を期待します。

学校長のことば

新入生の皆さん、本日はご入学おめでとうございます。今日まで慈しんで育てて来られた保護者の皆様にも心からお祝いを申し上げます。また、ご多忙の中、本日ご列席を賜りました、東京大学藤井総長はじめご来賓の皆様にも心から御礼を申し上げます。
 
さて、未来の見通せない社会になりました。AIの普及により、今後、日本の労働人口の約半分が仕事を奪われるといったショッキングな未来予測を目にすることもあります。労働者としてどう生き延びるのかが課題となる時代状況にあります。未来が不確かになればなるほど、人々は確実な未来を探そうとし、その結果、どうやって少しでも高い偏差値の大学に入るのか、そのための受験勉強の場へと中等教育が変貌しつつあるように危惧しています。
 
今日は、皆さんの入学にあたって、私が改めていま感じている大事なことであり、考えてみると当たり前の真実をお伝えしたいと思います。東京大学の教授を15年続け、多くの東大生と身近で接しててきた立場から、皆さんにまずお伝えしたいのは、良い大学に入ることが、皆さんの人生を決定するわけではないし、皆さんの幸せを確実なものにするわけではないということです。受験勉強というのは、正しい知識をできるだけ多く記憶し、それを正確に表現する能力が大切です。受験問題というのは、すべて正解のある問いです。でも、今日、家に帰ったら保護者の皆さんに聞いてみてください。人生で、そして社会で、正解の決まった問いに直面すること、それを解くための努力をすることが、どれくらい重要だったかと。人生においても、社会においても、皆さんがこれから直面していくのは、正解のない問いであり、もっといえば、何が問うべき問いなのか、より深い問いを探していく営みです。そして、一人で出来ることは意外なほど少なく、人と協力することなしに、皆さんは幸せな人生を送ることはできないはずです。恐らく皆さんの保護者の方々はすでにそのことを実感されていることだろうと思います。
 
これから皆さんは、東京大学教育学部附属中等教育学校という船に乗って、海路のない旅路に出ようとしています。これから皆さんが学ぶことは、人とはどういう存在なのか、よりよく生きるとはどういうことなのか、一人では生きられないのだとしたらよりよい社会とはどういうことなのか、そのような社会をつくるために我々はどうしなければならないのかといった事柄を、様々な教科、様々な行事や活動を通して学んでいくことになります。そのことを本校では「探究的市民の育成」という言葉で表現しています。
 
本校では、「面白さを追求する」「人と協力する」「試行錯誤する」といったことを重視してきました。授業自体も独特な授業が多いです。それぞれの教員が、その教科に関わる世界の奥深さ・面白さに自ら興味を持って探究し、その世界の魅力に生徒を巻き込んでいこうとするような授業を展開しています。ぜひ、様々な教員の授業を通して、学びの世界の魅力を友達と一緒に探求していってください。
 
小学校までは、自分でやり遂げることが重視されていたかもしれません。しかし、人生は何度も申し上げているように、一人で生きていくことはできません。助けたり、助けられたり、一緒に作り上げたり、そういったことのなかに、人生のだいご味があります。まず、皆さんは困ったことがあったら、周りの友達や、周りの教員に、気軽に頼ってみることに挑戦してみてください。「困ったことがあっても、人って意外と優しくて、必ず助けてくれる人が現れるものなんだ」ということを学べただけでも、一生の財産になるはずです。この6年間は、順風満帆に進むわけでは決してないと思います。辛い出来事、悲しい出来事、思い通りにならず人知れず涙を流すような悔しい出来事。そういったことに出会うこと自体が、後から考えた時には成長の貴重な機会になっていることと思います。そして、そんなことがあったときに、一人で抱え込むことなく、いろんな人に頼ってみてください。総合教育棟の2階に、校長室兼副校長室があります。何かあったら、気軽に来てくださいね。原則、月曜と木曜には学校に来ています。
 
保護者の皆様も、お子様のこと、学校のことで不安なこと、気がかりなことがございましたら、早めに、どんなことでも構いませんので、話しやすい教員を見つけて、ご相談いただけたらと思います。
 
私たち教師ひとりひとりも、生徒の皆さんに寄り添うだけでなく、皆さんの興味関心に改めて学び直しながら、人間とは、社会とは、自然とは何なのかを一緒に問い直し、そのプロセスを通して、皆さんの成長を応援していきたいと思います。 改めて、本日はご入学、誠におめでとうございます。

総長からの祝辞

東京大学総長の藤井輝夫です。新入生の皆さん、教育学部附属中等教育学校へのご入学、誠におめでとうございます。保護者・ご家族の皆さまにも、心からのお祝いを申し上げます。
 
皆さんにとって、新しい一歩を踏み出すこの特別な日に、立ち会えることを大変うれしく思います。これからの6年間、皆さんはこの新しい環境で、様々な人と出会い、新しい物事を学び、成長していくことでしょう。楽しみな反面、緊張もされていると思います。実際、学校生活では、楽しいことばかりではなく、友達との衝突、勉強の難しさなど、自分の思いどおりにいかないことや、困難に感じることもあるでしょう。ですが、それらの経験は、皆さんを成長させ、未来の自分を形作る大切な一部になります。本当に困った時には、遠慮せず周りを頼ってください。壁にぶつかっても、それに悩み、壁を乗り越えようとする経験は無駄なものにはならないことを、忘れないでいただきたいと思います。
 
さて、本校のスクールポリシーのうち、入学者に求められる資質を示したアドミッション・ポリシーというものがあります。皆さんどのようなものがあったか、覚えておられるでしょうか。この中のひとつに、「感じたことや考えたことを、自分のことばによってまとめられる表現力」があります。皆さんはこの能力をすでに認められて今日この場に来ているわけなので、私からは、それをさらに発展させて、「自分のことばで表現したことを他者と共有する」ことを皆さんには実践していただきたいと思います。

私は4年前に東京大学の総長に就任しましたが、その年に、大学が進むべき方向を示した基本方針として、「UTokyo Compass」を打ち出しました。この「UTokyo Compass」でキーワードとなっているのが、「対話」です。この「対話」は、単なるおしゃべりではなく、まだ知らないものと向かい合い、それを知ろうとする実践を意味しています。この対話を通じて、私たちはお互いに問いを共有できます。共に問いかけ、考えることで、相手の考えていることが理解でき、その考えに共感することで、お互いの信頼が構築できると考えています。

対話を始めるには、まず物事をよく考え、自分がいま感じていること、考えていることをことばにし、それを発信して、他者と共有することが第一歩となります。人から借りてきたことばではなく、自分のことばにするというのは、その過程で考えがより深められるということもありますが、発した後に責任を持つ、ということにもなります。なんだそんなことか、と思われるかもしれませんが、対話によってお互いを理解し、信頼を構築することは、ここ数年でますます重要性を増しています。気候変動や、記憶に新しい感染症、そしていよいよ混迷を極めているウクライナやパレスチナにおける紛争問題など、様々な地球規模の課題が次々に現れています。そのような人類全体の課題においても、多くの人々と一緒に向かい合い、問いを共有し、よりよい未来について、ともに考えることが大切です。どんなに大きな問題でも、まずはそれに関わる人達が対話をし、信頼を作り上げていくことが、解決の第一歩となっていきます。
 
今日から皆さんも本校の一員となります。好奇心にしたがって様々なことに興味を持ち、勉強、行事や部活動など、思う存分に取り組んでください。様々な人と触れ合い、言葉を交わしてみてください。幸いにして、本校には、自身とは学年や世代、立場の違う人々と、共通の課題やテーマについてじっくり考え、意見を交わすような機会がたくさんあります。そのような機会を積極的に活用していただき、様々な人と対話してみていただきたいと思います。
自分が興味を持てること、これは、勉強や将来の夢といったことだけではなく、趣味なども含めたことですが、そういったことを見つけて、大いに遊び、楽しんでください。そして、たくさんの友人を作ってください。私自身そうなのですが、中学高校で出会った友人というのは、一生を通じて関わり続ける、かけがえのない友人になるはずです。
 
最後になりますが、皆さんの豊かな学びが、明日の日本、ひいては明日の世界を拓いていく力となることを願いまして、私からのお祝いの言葉といたします。ご入学、誠におめでとうございます。

教育学研究科長からの祝辞

新入生のみなさん、保護者の皆様、本日は東京大学教育学部附属中等教育学校へのご入学、誠におめでとうございます。

昨年11月、私は本校生徒会が企画した「学校における生徒の権利」について考えるイベントに参加しました。新入生の皆さんは、これまで子どもや生徒の権利について考えたことはありますか。子どもや生徒は、「まだ子どもだから」「生徒だから」という理由で自由にできないこと、制約されることがたくさんあります。たとえば、飲酒や喫煙、スマホなどの契約を結ぶことや選挙で投票することはできません。また、東附は違いますが、多くの学校では制服があり、生徒が自分の好きな服装で登校することはできません。そうした自由の制限には正当な理由があるものがほとんどですが、中には合理的な根拠が疑わしいものもあります。実際、都立高校の校則の例ですが、近年、髪の一律黒染めや下着の色指定などの規定が見直され、廃止されるということがありました。

昨年、生徒会の皆さんとお話したのは、そもそも人権や権利というのは、大人になったり、学校を卒業してはじめて認められるものではないこと、つまり、子どもや生徒も人権・権利の主体であり、もしそれが不当に制約されたり奪われているのであれば、それは人権侵害という問題なのだということでした。1989年に国連総会で採択され、1994年に日本政府が批准した児童の権利に関する条約、一般的には子どもの権利条約と呼ばれている国際人権法があります。この条約は、子どもをその未熟さゆえに保護が必要な存在としてのみ捉えるのではなく、権利を行使する主体であるともする、積極的な子ども観に立っていることに特徴があります。日本でも、2023年4月、憲法と、この子どもの権利条約の精神に則り、すべての子どもが健やかに成長でき、その権利が尊重されること、そして将来にわたって幸福な生活を送ることができる社会を実現するために国などの責任や施策の基本方針を定めた「こども基本法」という法律が施行されました。

この子どもの権利条約とこども基本に共通して述べられている、重要な権利に「意見表明権」があります。これは、子どもには自分に関係のある事柄について、安心して自分がどう考えるかを表明する権利があるということ、そして、周囲の大人には、そうした子どもの意見を聴き取り、尊重する義務が課されるというものです。この権利は、校則改正においても適用され、教職員が生徒の権利や利益を考えて見直すだけで不十分とされ、生徒自身が参加して見直しが行われました。確かに、子どもや生徒はおとなに比べれば知識や経験が不足しており、判断能力も未熟かもしれません。しかし、子どもや生徒が自分たちのことに関わる決定に参加する機会や経験が否定されたり、狭められてしまっていては、おとなになってはじめて「さあ、これからは主体的に権利を行使してください」と言われても実行できるでしょうか。経験や知識の不足、未熟さは権利を制限する理由というよりも、子どもに権利を行使する機会と経験を十分に提供することを社会やおとなに要求するものなのです。

さて、本校の教育目標は「未来にひらく自己の確立」です。自分の未来を主体的に切り拓いていくという意味ですが、その自分、自己というものは周りの人々や社会との関わりなしには成立しません。これから皆さんが東附で生活していくなかで部活動や進路などいろいろなことを選び、決めていくのですが、一見、自分ひとりで決めたように思えることでも周りから励まされたり、助言を受けたり、助けられたりして決めていることがほとんどです。成長とは「自分のことを親や先生をはじめととすると大人によって決められる」状態から、「自分のことは自分で決める」状態への移行のように思われるかもしれませんが、実はそれほど単純ではありません。自己は必ず他者との関わりのなかで存在しているので、私のことは私たちのことでもあり、私たちのことは私のことでもあります。つまり、「自分のことは自分で決める」というのは、実際には多くの場合「私たちのことを私たちで決めている」ことになります。「未来にひらく自己の確立」という教育目標の言葉には、それぞれの私が自分らしく生きることだけでなく、私たちのことを私たちで決めることを通して、より良い未来を力をあわせて作っていくという意味が込められているように私には思えます。

今日から6年間、東附の教職員はその教育目標を実現するために皆さんに伴走し、支援を行っていきます。しかし、その支援が善意ではあっても、一方的な思い込み、少し難しい言葉を使えばパターナリズムという「押しつけ」に陥らないように、皆さんには意見表明という形で「声」を届けて欲しいと思います。学校生活のどのような側面であっても、困ったなとか、こんなふうに変わってほしいなということを聞かせてください。もちろん、意見表明は「なんでも自分の思い通りになる」ということではありません。そうではなく、「意見表明」の本質的な意義は、教職員が生徒の皆さんの声にきちんと向き合うことで、教職員自身の考え方が、生徒と教職員の関係が、そして東附が生徒みんなの権利が保障される学校への変化していく契機となることにあります。東附では、既に教室をはじめ、様々な場面で生徒どうしが対話し、協働する学びが長い歴史を持って定着しています。そのような教育実践は、教職員が生徒の声に耳を傾け、教職員どうしも互いの声を聴きあう関係がないところでは成立しません。東附は、ただ教職員が生徒のために頑張る学校ではなく、生徒と、そして保護者と教職員が一緒に力をあわせて作ってきた学校ですし、これからもそうあり続けます。

皆さん、どうぞ、今日から始まる新しい学びと生活を存分に楽しんでください。改めまして、東京大学教育学部附属中等教育学校へのご入学、おめでとうございます。

PTA会長からの祝辞

新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます。

この東京大学教育学部附属中等教育学校は、長い歴史と独自の教育理念を受け継ぎ、自由な探求心と多様な視点を大切にする伝統を持っています。大学附属ならではの研究的視点や豊かな学習環境の中で、皆さんはこれからさまざまな学びや経験を積み、思考力や表現力を大いに磨いていくことでしょう。

さて、学校生活をスタートするにあたって多くの方が気にするのは、「周りの雰囲気」や「空気」です。日本では「空気を読む」という言葉がよく使われます。しかし皆さんには、「空気は読むべきものではなく、つくり出すもの」という考え方をぜひ持って欲しいと思います。

よく東附の生徒は個性的な人が多いと言われます。しかし考えてみれば人は誰でもそれぞれの個性を持ち、それぞれが個性的であるはずです。皆さんの先輩たちもその個性を包み隠すのではなく、お互いに尊重しあい伸ばしてきたからこそ、個性豊かな学校を作り上げてきたのだと思います。この学校には、一人ひとりの個性を大切にし、主体的に動くことで新たな文化や伝統を生み出せる素地があります。皆さんも空気を読んで周りの雰囲気に流されるのではなく、自分たちの手で空気をつくり上げ、新しい価値観や学びのスタイルを切り拓いていってほしいと願っています。
そして保護者の皆様には、心からのお慶びを申し上げます。

つい先日まで小学校に通っていたお子さんがこの場所に辿り着くまでには、なだめたりおだてたり時には叱咤激励したり、親ががんばって手を引いて連れてきたというご家庭の方が多いのではないかと思います。しかしこれからは先を歩いていくのは子どもたちです。子どもたちを信じて温かく、そして時には辛抱強く見守り続けることが子どもたちの自立につながるはずです。

私たちPTAは、子どもたちが安心して多面的な学びにチャレンジできるよう、教職員の皆様とともにしっかりとサポートしていきたいと考えています。失敗を恐れず、自分の興味関心を探究し、仲間と支え合いながら挑戦を続けることで、子どもたちは大きく成長していくでしょう。

最後になりますが、みなさまが実りある6年間を過ごせますよう心より願い、私からのお祝いの言葉とさせていただきます。本日は本当におめでとうございます。

東京大学教育学部附属中等教育学校 PTA会長
森口智志