Secondary School attached to the Faculty of Education, the University of Tokyo

【行事報告】卒業式

2025年3月14日(金)に、2024(令和6)年度卒業式が盛大かつ厳かに挙行されました。今年度はコロナ禍前の形に完全に戻り、在学生全員が加わり、いつもの賑やかな雰囲気が会場を包みました。天気にも恵まれ、晴れやかに74回生を送り出すことができました。

学校長のことば

74回生の皆さん、本日はご卒業おめでとうございます。保護者の皆様にも心からお祝いを申し上げます。また、藤井総長はじめご来賓の皆様におかれましては、ご多忙の中、ご列席を賜り、誠にありがとうございます。

皆さんは一年生で入学されて、まもなく、コロナの世界的流行により、いわば不自由な学校生活を余儀なくされたとうかがっています。休校になって不安なことがあったり、人に話したいことがあっても友達にも会えない時期、ようやく登校しても様々に活動が制限された時期などがあったかと思います。さらに、ご家庭に大変な変化がおありだった方もいらっしゃることでしょう。稀にみる激動の時期を経験され、様々な苦難のなかで本日の卒業式を迎えられた皆さんに改めて心からお祝いを申し上げたいと思います。

この六年間を通して、皆さんが学ばれたことはどういうことだったでしょうか。努力を人知れず積み重ねることの大切さ、なんていうと、学校の卒業式の式辞らしい感じになりますが、努力してもうまくいくときもあれば、うまくいかないときがあるのが実際ですよね。もしかしたら、志望校に合格して非常に誇らしい気持ちで今日を迎えている方もいれば、自分の行たかった進路がうまくいかず、「もっと努力しておけばよかったのに」という周りの視線に、少し後ろめたい思いで今日を迎えている方もいるのかもしれません。でも、大学入試で人生は決まらないことを、東大教授としてお伝えしたいと思います。

皆さんがこの6年間を通して、友達と一緒笑うこと、友達の悔しさに一緒に涙を流すこと、友達が困っていたら助けること、友達と一緒に何かをなしとげることの喜び、さらに未知のことをより深く知ったり、調べたり、よく知っている人に聞いてみたりすることの大切さを学んだとしたら、そのことのほうがはるかに大きな財産であることを申し添えたいと思います。

特に人の力を借りることの大切さは、受験勉強ではなかなか学べないことだろうと思います。

どうせ一回の人生です。思いっきり笑って思いっきり泣いて、様々な感動を味わって生きていってください。皆さんの新たな門出を心から祝福し、式辞に代えたいと思います。

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総長からの祝辞

東京大学総長の藤井輝夫です。東京大学教育学部附属中等教育学校卒業生の皆さん、ならびに保護者・ご家族の皆さま、ご卒業、誠におめでとうございます。

今日この日から、新たな一歩を踏み出される皆さんに、心からお祝いを申し上げます。その成長を見守ってこられた保護者・ご家族の皆さまにおかれましては、絶え間なく温かい愛情を注いでこられたこと、様々な困難をともに乗り越えてこられたことに敬意を表しますとともに、心よりお慶び申し上げます。

2021年12月に特別授業をさせていただいて以来、3年ちょっとが経ちました。当時はCOVID-19パンデミックの真っ只中で、マスクをしたままお話ししていたわけですが、いま考えると隔世の感があります。私自身、本日、附属中等教育学校を再び訪れることができて、大変嬉しく思います。

さて、今日この場にお招きいただいたのをきっかけに、あらためて本校のスクールポリシーを確認しました。卒業時にできていてもらいたいこと、グラデュエーション・ポリシーとして、「自己との対話・多様な他者との対話を通して多岐に亘る事象に関心を深め、筋道を立ててその本質を問い続けることができる。」と定められています。この「対話」は、じつは私が4年前、東京大学総長に就任した年に打ち出した大学の基本方針「UTokyo Compass」でも「多様性の海へ:対話が創造する未来」、という具合にキーワードとなっています。

私たちが重視している対話は、未知なるものと向かい合い、それを知ろうとする実践です。この対話を通じて、お互いに問いを共有して、共に問いかけ、考える中で、深い共感的理解にもとづく信頼の構築を目指すものです。

皆さんはこの6年間、この対話を幾度となく実践してきたのではないかと思います。本校に特徴的な生徒総会や三者協議会などの場では、自身とは学年や世代、立場を超えた人たちと共通の課題やテーマについて一緒に考え、意見を交わすことがあったでしょう。また、日常の授業の中でも、協働的な学びの中で、クラスメートの多様な考え方や、自分とは違うものの見方に触れ、その中で自分なりの意見や答えをつくり、他者に理解してもらうと同時に他者を理解していく、そうして他者も自分も成長していく、といった体験をしてきたことと思います。

この対話による相互理解と信頼の構築は、ここ数年でますます重要性を増しています。気候変動、生物多様性の損失、感染症、不平等、そしてますます混迷を極めているウクライナやパレスチナにおける紛争の問題など、様々な地球規模の課題が次々と現れています。そのような人類全体の課題だからこそ、多くの人に向かい合い、問いを共有し、よりよい未来についてともに考えることが必要です。どんなに大きな問題でも、解決が難しい課題でも、まずは関係者間で対話をし、信頼を作り上げていくことが解決への第一歩となるでしょう。

本日、皆さんは卒業式という節目を迎えました。これから待っている新たな人や環境との出会いに胸を高鳴らせる一方で、6年間過ごした学校や友人との別れへの寂しさや、未知の世界へ足を踏み入れることへの恐れも、多かれ少なかれ、皆さん全員が感じていることと思います。世界はいま目まぐるしく変わっています。先ほど申し上げた様々な問題がそびえ立ち、これからどうなってしまうのか、どうやって生きていくべきか、将来に思いを馳せると、少し不安になってしまう人もいるかもしれません。

ですが、対話によって自らの考えをはぐくみ、そしてそのプロセスの重要性を実感されている皆さんだからこそ、そういった課題に対して、前向きに取り組んでいって頂きたいと思います。今私たちの目の前にある課題は、これまでのやり方だけで解決できるものばかりではありません。まずは視野を広く持って、諦めずに考えぬいてください。そして、立場や課題への関わり方の異なる人びととともに、よりよい未来への道を探り続けてください。そうして初めて、私たちが直面する様々な課題の解決に向けた道筋や方法が明らかになってくるのだろうと思います。これは決して簡単なことではありません。しかし、本校で学んだ皆さんであれば、常に高い志をもち、自ら課題を発見して、その解決に挑んでいく未来の開拓者、すなわち「創造的地球市民」へと成長していただけるであろうと、大いに期待をしています。

最後になりますが、卒業生の皆さんへ、あらためまして心からの祝福とエールを贈り、お祝いの言葉といたします。

本日は、ご卒業、誠におめでとうございます。

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研究科長祝辞

 74回生の皆さん、保護者の皆さま、本日はご卒業誠におめでとうございます。

昨年末、教育学部の1階ラウンジに新しい掲示板が設置されました。東附の生徒みなさんの創作や研究成果を展示する専用の掲示板です。ラウンジは学生が昼食をとったり、グループワークをしたり、オンラインの授業に出席するのに使用されています。飲料水やスナック菓子の自販機があるので教職員も頻繁に出入りする場所です。その掲示板にいま展示されているのは、1年生の総合学習入門「東大探検」の成果の一部で、探検のテーマは「東大の道」「東大の真実」「東大生の生活習慣」です。「東大の真実」では、東大の長所を東大生にインタビューしていて、女子学生では学習面での充実、男子学生では友人や教員をなど「周りの人」からの刺激があげられることが多かったと報告されています。さてそれでは、皆さんにも聞いてみたいと思います。「東附の真実」とは、何でしょうか。東附の長所、そして短所を心のなかであげてみてください。

覚えている方はほとんどいないと思いますが、皆さんがこの学校に入学した時、私は校長を務めていました。入学式のあいさつで、皆さんにこう語りかけました。

「新入生の皆さん、今日から始まる東大附属の授業や生活は、他の学校とは少し違っているかもしれません。先生が一方的に教える授業はほとんどありません。その代わり、友達どうしで疑問に感じたことや問題の解き方、考え方を話し合ったり、自分たちで調べて発表する授業がたくさんあります。学校の外に出かけて生活や文化や自然について調べることも少なくありません。また、体育祭や銀杏際と呼ばれる文化祭などの行事も生徒が中心になって行います。教職員はサポート役です。こうした本校の特徴は70年という歴史のなかで、皆さんの先輩と教職員がともに作り上げてきました。私たちは、そうした伝統ある東大附属の教育をとても誇りに思っています。

 しかし、私たちにとって一番大切なのは、いまこうして入学された皆さんであり、東大附属の約720名の生徒一人ひとりです。東大附属の生徒全員が安心して学校生活を送れるように、そして多くの信頼できる仲間と出会い、仲間と協力しながら自分自身の未来を切り開いていけるよう、私たち教職員は全力で皆さんの手助けをします。そして、6年後に卒業を迎える時には、いろいろな違いがあっても互いを尊重しあえる、寛容な社会や平和な世界を築いていく力を身につけてほしいと思います。」

残念ながら、現代社会は寛容や平和という言葉よりも、分断や危機という言葉で語られることの多い社会です。いまも世界各地で紛争が絶えず、少子高齢社会化に伴う諸問題、AIをはじめとする技術の進歩の傍らで流動化する雇用・労働市場、格差拡大などの社会課題が顕在化しています。また、豪雨や台風などによる自然災害が世界中で発生し、地球温暖化による自然生態系への深刻な影響も指摘されています。

これもまた皆さんは覚えているはずもありませんが、私は集会で環境活動家のグレタ・トゥーンベリさんの言葉、No one is too small to make a difference.を紹介したことがあります。いま、私の目の前に、その時より格段に成長し、賢くなった皆さんがいます。入学の時にはわからなかったことで今はわかるようになったこと、できなかったことで今ではできることが数えきれない程あるはずです。ヒトは学ぶことで賢くなる。これはほんとうにすばらしいことです。しかし、その賢さは、自分とは異なるヒト、あらゆる生命を尊重し、ともに成長する、生きることにつながるものでなくてはなりません。学んで賢くなるということは、差別や支配とはほんらい反対のことのはずです。人が人を傷つけたり、国や民族が他の国や民族を支配することは許されません。同様に人が他の生き物や自然、地球環境を支配するのではなく、共に生きること、そうした理想の実現に向けて、小さいことでも、日常的なことでも、何かしらの行動ができる、そういう賢さを、皆さんはこの東附で身に着けてくれたものと思います。ちなみに、教育学部ではそういう賢さを「インクルーシブな知性」と呼んでいます。

皆さん、東附は小さな、ある意味で非常に閉ざされた空間ですが、これからはその小さな空間で得た賢さを活かして、それぞれのやり方で、皆さんの場所をより良い場所にしていってください。

きょう、広い社会に向けて東附を巣立っていく皆さんの未来に幸多からんことを祈念して、簡単ではありますが、私からのお祝いの言葉といたします。

ご卒業、ほんとうにおめでとうございます。  勝野正章

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PTA会長祝辞

早春の清らかな光が差し込むこの佳き日に、厳粛かつ盛大な卒業式を執り行っていただきまして誠にありがとうございます。

卒業式にあたり、PTAを代表いたしまして、お祝いの挨拶をさせていただきます。

74回生の皆様、ご卒業 誠におめでとうございます。

ご列席の保護者の皆様におかれましても、同じ保護者の1人として、共に喜びの思いを込め、お祝い申し上げます。

また、6年間にわたりPTAの活動にご理解とご協力を賜り、誠にありがとうございました。生徒たちの成長を支えるために尽力していただきましたことに深く感謝申し上げます。

親同士で共有した経験と感動は、今後も貴重な財産として大切にされることと存じます。

また、ご来賓の皆様におかれましては、公私ともご多用中の中、ご臨席を賜りまして、誠にありがとうございます。

皆様から頂きました心温まるお祝いや励ましのお言葉は、卒業する生徒の胸に深く刻まれたことと思います。

本日卒業生の皆さんは、コロナ以前に入学された学年であり、制服着用が義務付けられていた最後の学年です。

6年前の入学式、ちょっと大きめの新しい制服に身を包んだ皆さんの顔には、喜びとともに緊張の色がありました。

持ち帰れないほど重くて多い教科書を見て、学校生活への不安を感じたこともあったのではないでしょうか。

その後、当たり前は当たり前ではない現実を経験し、今まで体験したことのない様々な苦労や悔しさ、また難しさも感じた学校生活の中、自分と向き合い、少なくなった学校行事においても、一生懸命に仲間と支え合いながら乗り越えてきました。

その結果、今日という素晴らしい日を迎え、今ここに自信に満ちた皆さんの顔を見ることができます。

今後も変化が予測しづらくなる世の中ですが、成人としての責任を自覚し、様々な困難を乗り越え、輝く未来を自らたくましく作り上げてほしいと願っています。

いつでも、どんなときでも、私たちはあなたの味方です。

東大附属で学んだことを信じ、自分を信じ、前を向いて進んでいってください。

そして、校長先生をはじめ教職員のみなさま。

あらためまして、多感な時期の子どもたちの成長を支えていただき、ありがとうございました。

東大附属の学生生活で出会った人々、経験したこと、感じた心、すべてがあなたたちの貴重な財産です。

それらを携えあなたたち一人ひとりがそれぞれの実現したい未来に向かって進み、自分らしく生きていくことを願っています。

あなた達の人生が 「万彩」の笑顔につつまれますように。       74回生保護者一同。

最後に、卒業生の皆さんの輝かしい未来と東京大学教育学部附属中等教育学校の限りない発展を祈念し、お祝いの言葉とさせて頂きます。


                                                                                                                2025年3月14日
                                                                             東京大学教育学部附属中等教育学校PTA
                                                                                                                         会長 田口 紀子